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特定処遇改善加算の届出の傾向及び事例について

 2019年10月から導入される特定処遇改善加算(以下、特定加算)に関する事例や傾向に関して、当法人が比較的規模の大きい社会福祉法人に対して行った独自の調査結果(調査対象:事業高30億円以上13法人、20億円以上2法人、合計15法人)に基づき、判明した傾向や事例などをご紹介します。

特定加算の算定開始月

 調査対象のすべての法人が8月までに届出を行い、10月から算定しています。なかには、事務的な煩雑さや職員間の不公平さを理由に当初加算を見送る予定の法人もありましたが、当法人より制度趣旨の説明と競争力確保のため必ず算定すべき加算であると考えられる旨を説明し、最終的には調査対象すべての法人で加算届出に至りました。

複数事業所がある場合のグルーピング方法(法人一括か事業所ごとか)

●法人一括が13法人、事業所ごとの申請が2法人
法人一括で申請した方が制度上有利であり(事業所Aと事業所Bがある場合、事業所ごとに申請を行った場合、一定レベルへの賃金改善対象者は拠点Aに1名、拠点Bに1名必要となるが、法人一括申請の場合、拠点Aに2名or拠点Bに2名でも可)、書類も少なく済むことから、通常は、一括して申請する方法を選ぶことになると思われます。

グループaの定義

 法人によって定義は様々であり、以下の通りとなっています。
①自法人で10年以上・・7法人
②自法人で10年以上、かつ、人事評価や役職を考慮する等、①よりも条件を強化・・3法人
③他法人も含め10年以上・・3法人
④自法人で5年以上、①を満たすか一定の役職以上等、①よりも条件を緩和(③除く)・・2法人

 ②としている法人は当該事業開始後の年数が比較的短い傾向にあります。対象者の識別が容易であり、かつ、10年という期間は国が示している期間であり職員への説明のし易さから約半分の法人が①の定義を採用しています。

賃上げの対象

●グループaのみを対象が0法人、グループa、bのみ(介護職のみ)を対象が4法人、グループa、b、cすべてを対象とした法人が11法人(うち、制度対象外者も対象とした法人は6法人)

 不公平感を理由に4割の法人が制度対象外者への配分を行う予定です。特定加算制度自体は勤続10 年以上の介護職の処遇改善を主目的としており、制度上で想定されている配分対象者が限定されています。そのため、多くの事業を抱え、また、多職種が協働する事業所を有する法人においては、見方によっては今回の特定加算制度そのものが不公平であり、それを法人の判断で公平となるように配分すること自体、困難を伴うものと考えられます。
 制度改正をきっかけとして全職員の処遇改善を行うことを目的とするならよいのですが、単純に制度改正による不公平感是正を理由に、制度改正のたびに法人業績とは無関係に持ち出しをしていては、経営は悪化する一方であり、国の制度に経営が振り回されてしまいます。
 今回の特定加算の配分方法は、法人の創業時期や実施する事業を考慮するだけでなく、現時点の職員の平均勤続期間、現時点の職員の年収のばらつき、将来採用したいと考える職員像(業界経験年数)、現職員への説明の容易さ、採用活動時の競争力の視点等を考慮して、(事務職員に算定を任せるのではなく)経営者が積極的に関与して決定すべきものと考えられます。
 今回は国からのQ&A等の一部が締め切り直前の公表であったため、十分な検討時間がなかった法人も多かったと考えられますが、今後、当初計画で策定した配分方法が自法人の経営戦略と整合した配分となっているかを常に見直し、必要に応じて修正をしていくことが必要になってくると考えます。そのためにも、まずは、今回配分額算定にあたって作成した全職員の賃金データを利用して、自法人の全職員の勤続年数ごとの賃金分布を可視化し、現状の賃金構造を把握することが重要です。これにより、例えば、扶養手当や住宅手当の存在により同一の勤続年数・役職、仕事量にも関わらず年収差が大きいといった事象に気づくケースや、特定の勤続年数層が抜けているケースに気づくケースがあります。これらの事象は現行の給与規程の見直しが必要である状況を示唆しているかもしれませんし、採用戦略の修正が必要である状況を示唆しているかもしれません。場合によっては、特定加算を公平に配分すること以上に、現行の給与規程を公平にしていくことの方が、昨今の雇用関連法制からして優先順位が高い状況に気づくかもしれません。

グループa:b:cの配分割合

●グループa、b、cのすべてに配分するとした11法人のうち、その配分比率がおよそ4:2:1となっている法人は6法人

支給の方法

●一時金または賞与が10法人、月額手当が5法人

平均的な改善状況

●グループaの平均月額賃金改善額(法定福利費込)
(介護)平均値23,931円、中央値22,506円、最高値40,000円、最低値16,015円
(障害)平均値25,555円、中央値22,944円、最高値40,000円、最低値15,510円

●賃上げ実施後、グループaに占める年収440万円を超える者の割合
(介護)平均値48%、中央値53%、最高値100%、最低値0%
(障害)平均値63%、中央値78%、最高値100%、最低値21%

賃金改善額や改善後の年収水準は、事業所の開設年度、職員の平均勤続期間に大きく影響を受けるため、平均値は参考程度としてください。

最後に 

 以上になりますが、自法人の状況と比べていかがでしょうか。当監査法人は、主に数値の妥当性を検証する批判的機能、適正開示やガバナンス強化のための指導的機能にとどまらず、監査を通して入手した様々なデータや各種統計データを活用して経営への気づきを提供し、法人の競争力強化に貢献することも重要な役割であると認識しています。単に監査を行う者と受ける者といった関係ではなく、当監査法人がお客様にとっての良きビジネスパートナーであり続けることを目指しています。
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あすの監査法人

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